景気回復基調も事故整備売上減少で総整備売上は横ばいに

 日本自動車整備振興会連合会(日整連、橋本一豊会長)が発表した2015年度版「自動車整備白書」によると、15年度の総整備売上高は、前年度からほぼ横ばいの約5兆5千億円となった。

 景気回復の兆しにより車検整備や定期点検整備などの売上高が増加したものの、保険料率の改定や交通事故件数の減少により事故整備売上高が減少したことが影響したと考えられている。

 また整備士不足の現状を反映し、整備要員数、整備士数ともに減少したほか、整備要員の平均年齢もさらに上昇し高齢化が進展した。


 15年度の総整備売上高は5兆5133億円で前年度比0・1%減とほぼ横ばいとなった。14年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動など、売上高を押し下げる要因は存在したが、前年度から続く景気の回復基調により微減にとどまったと推測される。

img

 業態別では、専・兼業は2兆7402億円(前年度比0・4%減)、ディーラーは2兆5364億円(同0・7%増)となった。  作業内容別では、車検整備売上高は同1・0%増の2兆1888億円となった。2年車検は前年度から0・4%減少したが、1年車検は4・9%増加した。  2年車検は、ディーラーが同1・8%増加したのに対し、専・兼業は同2・2%減少。要因としては、09年度から続くエコカー減税制度の影響により、ディーラー入庫率の高いハイブリッド車などが増加したためと考えられる。  1年車検は各業態とも増加。対象となる貨物車が、前年度に引き続き東日本大震災以降の公共投資や、東京オリンピックに向けた物流の活発化に伴う販売台数増加、稼働の拡大により需要の増大があったものと見られる。  定期点検整備売上高は3418億円で同6・8%増。1年点検は同4・6%増、6カ月点検は同14・2%増、3カ月点検が12・5%増と全ての作業内容で増加した。  1年点検は専・兼業の増加率1・7%に対し、ディーラーの増加率は6・6%と高く、ディーラーによる新車販売時のメンテナンスパックをはじめとしたユーザーの囲い込みが進んでいると見られる。  6カ月点検と3カ月点検の売上高が大きく増加した要因としては、大型貨物車の販売台数増加や稼働の拡大による入庫車両数の増加、また予防整備需要の高まりが入庫率向上につながったと見られる。  その他整備は1兆8249億円で同1・5%増。緩やかな景気回復により臨時整備、一般整備、新車整備、部・用品の取付け、カーケアサービス等が増加したと推測される。  事故整備は、保険料率の改定や交通事故件数の減少などの影響で同5・9%減の1兆1578億円となった。  事故整備を除いた整備作業は売上高を増加させていることから、事故整備の減少が総整備売上高を引き下げたものと見られる。

ディーラーで高い部品材料売上

 1事業場当たりの年間整備売上高は、総平均で5965万3千円。このうち補修部品にあたる部品材料売上高は2362万8千円。1事業場当たり売上高に占める部品材料売上高の割合は39・6%となっている。  これをさらに業態別に見ると、専業の1事業場当たり売上高は3546万6千円で、うち部品材料売上高は1288万4千円となり、1事業場当たり売上高に占める割合は36・3%。  兼業は4719万5千円で、うち部品材料売上高は1813万9千円。1事業所当たり売上高に占める部品材料売上高の割合は38・4%。  ディーラーの1事業場当たり売上高は1億5636万4千円で、うち部品材料売上高は6654万5千円。売上高全体に占める部品材料売上高の割合は42・6%となり、専業、兼業よりも部品材料売上高の割合が高い。

整備士不足が依然として深刻、女性整備士も減少傾向に

 整備要員の平均年齢は対前年度0・5歳増の44・3歳。慢性的な人手不足から高齢の整備要員に頼る状況に変化は見られない。  業態別では、ディーラーの34・4歳に対し専・兼業は48・5歳で、平均年齢の差は14・1歳。専業は平均年齢の増加幅も全業態の中で最も高く、組織的・計画的な人材採用が可能なディーラーに比べ、若年層の確保が難しくなっている現状がうかがえる。  整備要員数は全体では同0・02%減の40万1001人。最近7年間では増減を繰り返しながらも40万人前後で推移している。業態別では、専・兼業が同0・1%減の26万6233人と4年連続で減少、ディーラーは同0・2%増の11万5303人となり3年連続で増加。ディーラーのような組織的な採用活動が難しい専・兼業には整備要員確保が困難な状況が続いている。  整備士数は同0・7%減の33万999人で、4年連続の減少となった。業態別では、専・兼業が同0・2%減、ディーラーは同0・9%減となっており全業態で減少。  団塊世代の退職の動きに加え、整備士は専門性が高いため新たな補充が難しい。特に少子化や車に魅力を感じない若者の増加により整備学校の入学者数が減少しており、その結果業界に入ってくる人数が減少している。また、整備業界に就職しても労働環境や待遇面を理由に早期に退職する若者も増加していると見られ、整備士数減少の要因となっている。  そのため近年では、整備士資格を持たない一般の学校を卒業した若者まで採用の間口を広げ、入社後に整備振興会の二種養成施設を活用して整備士資格を取得させるなどの動きもある。整備士数減少の一方で整備要員が微減に留まっている背景にはこうした要因もあると見られる。  女性整備士は同11・3%増で、整備士全体に占める女性の割合は3・1%。09年度の女性整備士数と比較すると、15年度までに約1800人減少しており、全体では女性整備士数は減少傾向にあるといえる。  また、ディーラーの女性整備士数は09年度から15年度までに約380人増加しているが、専・兼業では約2千人減少しており、長期的視点ではディーラーが女性整備士を増やす一方、専・兼業は減少させていることがわかる。  これは、ディーラーが女性ユーザーの目線から整備の相談・アドバイスをできる人材として女性整備士の採用を進めているのに対し、主に家族単位で経営し経営者夫婦が整備士資格を有することも多い専・兼業では、経営者の高齢化や後継者不足などの理由で廃業するケースが増え、それに伴い女性整備士の数も減少したと推測される。  近年では、国土交通省や業界関係者による人材不足対策に関する協議会、検討会等で「女性の活用」に関する協議も行われ、業界全体で女性整備士の採用増加に向けた取り組みが進められている。 img

スキャンツールの使用状況にディーラーと専業で格差

 同白書では、システムの点検・整備の際に必須となりつつあるスキャンツールの所有や使用状況に関する実態調査結果も公表した。 img  会員事業場(専・兼業、ディーラー、自家)約8700軒を調査したところ、スキャンツールを所有する事業場は全体の約8割にのぼることがわかった。このうち 2台以上所有している事業場は53・1%で半数を超える。平均所有台数は1・9台。  業態別所有状況では、スキャンツールを所有しているのは専・兼業は72・5%に対し、ディーラーは94・5%。最新の電子制御システムの点検整備を行うためスキャンツールが必須のディーラーは、ほぼ全事業所で所有している。2台以上所有している割合もディーラーの方が高い。  また、所有しているスキャンツールの種類は、専・兼業は「標準スキャンツール」の割合が最も高く60・7%。 ディーラーは「メーカー専用スキャンツール」が93・6%と最も高くなり、業態の特色の違いが表れている。  一方、スキャンツールを所有していない理由(グラフ上)については、専・兼業は「外部に依頼している」が48・6%で約半数。近隣のディーラー等への外注で対応していると思われる。  また「高価なため購入できない」という回答も38・4%にのぼる。専・兼業がスキャンツールを所有していない理由には、価格の問題のほか、難しく使いこなせないという技術・知識不足もあるものと推定される。  平均月間使用回数は、ディーラーが「100回以上」と多く日常的に使用しているのに対し、専・兼業は「約15回」と日に1回以下と少ない。  使用目的(グラフ下)は約9割が「故障探求」だが、それ以外の「作業サポート」、「点検時の確認」、「有償診断」といった目的での使用割合は、各項目でディーラーが専・兼業より高くなっており、ディーラーが他の業態に比べスキャンツールを使用する機会も多く、日ごろから使いこなしていることが推定できる。一方で、専・兼業は使用頻度や使用範囲などの面において今後に課題が残されている。  また、故障診断料の請求の有無については、全体で「請求している」(47・4%)が「請求しない」(40・0%)よりやや多い。しかし、「請求している」が半数以下であることから、今後の故障診断料請求の割合の増加が注目される。 img

一般社団法人日本自動車部品協会 JAPA